心拍数が示すもの


心拍数は運動強度の重要な指標です。 自分の心拍数を知ることで、トレーニング強度をコントロールしたり、ペースを調整して、トレーニングの結果やレースの目標の達成をサポートします。

心拍ゾーンの分類

心拍数と運動強度を正しくリンクさせて実践的に使用できるように研究者は心拍数のゾーン分けを行いました。心拍ゾーンには、最大心拍ゾーン、予備心拍ゾーン、乳酸性閾値心拍ゾーンという一般的なものがあります。


しかし、心拍数の基準値はある特定の状況下で大きく変動することがありあまり参考にならないことも。限られた条件下で最大心拍数や乳酸閾値心拍数を正確に求めることができない場合もあります。また、心拍数に影響を与える要因はいくつもあります。


PART 1. 心拍数に影響を与える内的要因

生理指標である心拍数は、身体の他の生理指標から影響を受けることがあります。 実際の運動では、同じような強度の2回の運動で、それぞれ心拍数が大きく異なることがあれば、以下のような原因が考えられます。


休憩の長さ

運動をする人にとって、次の運動を始めるためには良好な回復が不可欠であり、回復は心拍数に重要な影響を及ぼします。 不眠症や睡眠不足など休養が足りない時は、安静時や運動時の心拍数の上昇を引き起こすことがあります。 一般的に、安静時心拍数が通常より5bpm高い場合、回復の質が低下する可能性があります。

※オーバートレーニングは運動時の心拍数への悪影響が大きく、回復が不十分な場合、同じ運動強度でも心拍数が著しく高くなることがあるため注意が必要です。


栄養と水分補給

食生活の乱れや栄養不足は心拍数に悪影響を及ぼすことがあり、日常生活できちんと食事を摂り、時にはサプリメントを摂取することも重要です。

また、脱水も心拍数に影響を及ぼします。 脱水によって体重が1%減少するごとに、心拍数が7bpm増加するという研究結果もあり、長時間運動をするという条件に関わらず、適時適切な水分補給をすることが大切です。


精神的ストレスと興奮

人間の身体は機械ではないので、感情の波があります。 精神的ストレスが高くなると、運動生理に影響を及ぼす可能性があります。 例えば、それまでと同じ運動強度の条件では、運動心拍数が4~6bpm増加することが研究で示されています。

同じように、一部のランナーの中には心拍数はトレーニング時とさほど変わらないのに、ペースが大幅に落ちる人がいます。 その理由の1つに、レース中の興奮による心拍数の上昇が考えられます。


病患

病気も運動心拍数に影響を与える重要な要因で、主観ではなかなかわからないものですが、運動心拍数の変化が起こる時もあります。 ランニング中に同様の症状が続く場合は、速やかに専門家に相談して受診する必要があります。


個人体質

遺伝的要因などで、生まれつき心拍数が敏感な人もいます。 これらの人々は、外的要因の有無にかかわらず運動中に心拍数が急激に変化することがありますが、 定期的かつ効果的な運動によって改善が期待できるかもしれません。 また、コーヒーを飲む(カフェインを摂取する)と心拍数が上がる人もいるように、心拍数は個人の体質からも影響を受けます。


PART 2. 心拍数に影響を与える外的要因


気候

心拍数に影響を与える一般的な気象要因としては気温、湿度、風などが挙げられます。例えば、高温多湿の環境での運動では平均心拍数や心拍数の上昇率が通常より高くなると言われており、この環境での心拍数の変化は過度に心配する必要はありません。この場合、適切な水分補給をすることで心拍数の上昇を抑制できる可能性があります。


環境要因

標高:環境要因が心拍数に及ぼす影響といえば、まず思い浮かぶのが標高です。 確かに高地で初めて運動する時は、心拍数が高くなるのが普通です。

シンプルな環境と複雑な環境:競技場のトラックや遊歩道や河川敷といったシンプルな場所での運動と、道路など人や車の往来の激しい複雑な環境での運動では、心拍数にも差が生じることがあります。

一方、シンプルで安全な環境での運動は、気が散ることなく行うことができ、心拍数も比較的安定していますが、複雑な環境では、ランナーは外的要因に阻まれ、時には立ち止まってそれらから逃れようとすることもあります。複雑な環境での騒音も心拍数の変動の原因となり、周囲の音が80デシベル以上になると、音量増加で心拍数が上昇する場合があるという研究報告がされています。


PART 3. 運動時の心拍数の限界


1回の運動の制限事項

上記のように、心拍数は1回の運動セッション中の様々な客観的・主観的要因に影響を受け、時には1回の運動セッション中のトレーニングの強度や効果を正しく反映しないことがあります。

また、人間の心拍数には生理的な遅れがあります。 上のグラフのように、ランナーはインターバルトレーニング中に急に運動強度を上げると、心拍数曲線はある一定にラインまで上昇すれば、それ以降はなだらかな変動に収まります。


インターバルトレーニングだけでなく山岳スポーツでも、光電式心拍計もしくは心拍バンドであっても運動強度が急激に上がるポイントで即座に心拍数がリンクしない心拍の遅れ(cardiac lag)が発生します。


長期間運動の制限事項

長時間運動は、乳酸性閾値心拍数や最大心拍数の変化から、一定時間のトレーニング効果を反映することができます。 しかし、各運動セッションの心拍状況をモニターするだけでは、様々な要因から一定期間のトレーニング強度や疲労度を評価することが難しく、運動トレーニングのスケジュールを適時調整することが困難です。



まとめ

心拍数の限界は、複数の要因で変動することにあります。 心拍数が大きく変動した場合、内的要因と外的要因の双方を吟味することが重要です。

1回の運動時の心拍数や、長時間運動時の心拍数も同様にあくまで参考値として限界がある。 そのため心拍データは重要ではありますが、一方ではそれだけを鵜呑みにすることは危険です。自分の主観など他の基準を持つといいでしょう。